2007-11-16

いわくつきの犬・シロ

 以前、「うちのワンコ」
 http://yume-no-nakade.blogspot.com/2007/10/blog-post_01.html
 で最後に「また後で!」と書いた「シロのいわく」を本日はご紹介いたします。(笑)

    *
 
 ある年の冬、会社の前の道に横付けするように黒塗りの古いベンツが停まっていました。スモークガラスで見にくいですが、その車内には人相のあまりよくない二人の男がいることは分かりました。

 「また、いるよわ!いったい何をしてるのかしら・・・」

 会社のパートさんたちが怖がります。
 ただそこに車を停めて、なにやらじっとこちらを見ている様子なのです。
 そして、黒ベンツは、しばらくするといなくなります。そんなことが何度かありました。

 「すみません。社長、いますか?」

 黒ベンツの男たち二人が、そう言って会社の事務所に入ってきたのは、それからしばらくした頃でした。
 警戒する事務員さん。
 社長(くりまんじゅうの父親)が応対に出ると、切り出した言葉は、「いい犬ですねぇ」だったそうです。

 「はっ?」
 社長も拍子抜けしたそうです。

 彼らは長野県の浅科村(当時)で酒屋(かつては造り酒屋)をやっている親子だと名乗ったそうです。
 狩猟が趣味で、セッターの雌犬を飼っているのですが、そろそろ、子供が欲しいと思っていたところ、偶然、おたくの犬を見つけて、見るからにいい犬なので是非交配させて欲しいと申し出たといいます。
 当時、会社の駐車場の脇でセッターの雄犬(名前はチコといいました)を番犬を兼ねて飼っていたのです。

 しかし、いきなりそう言われても、相手はどこの誰だかも分かりません。
 正直、人相もあまりよくないし^^;、だいいち、浅科村の酒屋の主人がどうして、群馬に来てるのか、それも親子で!そんなところも合点がいかない話です。
 ですから、一旦はお断りしのですが、それから、二人は何度も何度も訪れてきたのです。

 結局、根負けして、犬を貸し出すことになったのは、それから1ヶ月くらい後でした。
 ちょうど、父親の猟仲間のある人が子犬を欲しがっており、父親犬の権利として一匹頂戴できるという別の理由もありました。

 チコの信州遠征は一週間でした。帰ってきた時には鼻水垂らして、精魂尽き果てた様子でした。(笑)

 それから、しばらくして、季節は遅い春になりました。
 ある日、浅科村から電話があり「子犬が6匹生まれたので、是非、見に来て欲しい」と言われました。

 その週末の日曜日、選挙があって投票をした後に、家族揃って浅科村まで出かけました。
 そこは古い大きな建物の酒屋でした。かつては造り酒屋だったというのも分かります。広い庭に面した明るい居間でご主人の奥さんが出してくれたお茶を頂きました。

 くりまんじゅうは狩猟をしませんので分かりませんが、父親とご主人とその息子さんは「犬の血統」の話や「猟場」の話、そして「予防接種」などの今後の予定の話などをしてました。

 庭の広い檻にいた子犬はどれも可愛く元気でした。
 二時間ほどの滞在後、「血統書の申請や予防接種などの為、あと一ヶ月くらいしたら、また来て欲しい」と言われて、群馬へ戻りました。

 それから三週間くらいしてのことでした。夏前なのに妙に暑い日でした。
 昼過ぎくらいだったと思います。突然、くりまんじゅうの弟から電話が入ってきたのです。

 「今、車のラジオの臨時ニュースで聞いたんだけどさ、浅科村の**酒店で殺人事件が起きたっていってるよ!!」
 弟のその声は感嘆符に包まれていました。
 「えっ!!」
 「テレビではやってない?」
 すかさずテレビをつけ、チャンネルと探します。

 「ウソ!」

 思わず叫んでしまいました。
 画面の左側に「猟銃発砲殺人」というおどろおどろしい文字。
 庭先からの映像ですが、ついこの間、くりまんじゅうたちがお茶を頂いた居間が奥に見えています。
 レポーターがその現場の前でマイクを持って話してます。
 画面右下に「LIVE」とあるので生中継みたいです。

 「犯人は猟銃も持ったまま、現在なおも逃走中です。周辺の皆さんは注意してください!」

 レポーターはそんなことを神妙な顔をして言ってました。
 「間違いない・・・」

 その後の報道で事件の真相を知ることになりました。
 それは、悲惨極まる「猟銃発砲殺人事件」でした。

 真相はこんな話でした。

 そこの家には息子が二人いたそうです。
 弟さんの方はご主人と一緒にくりまんじゅうの会社に来て、そして茶の間でも話をした人ですから面識があったのですが、実は別に兄貴がいたそうなのです。
 その兄は離婚後、仕事もせずに酒に溺れており、その日も朝から飲んでいたそうです。

 「朝っぱらから、しょうがねぇな!」

 事件の引き金は弟のそんなたわいもない一言から始まったそうです。
 普段から、二人はあまり仲の良くなかったらしく、その言葉に腹を立てた兄と弟はそのまま兄弟ケンカをはじめたそうです。
 そこを割りに入った父親が兄を殴ったそうです。
 すると、激高した兄はすぐに自分の部屋に行き、猟銃を取り出して、その銃口をなんと父親に向けたのです。

 「撃てるものなら撃ってみろ!」

 ご主人としたら、それは脅し文句だったのでしょう。いくらなんでも相手は実の息子です。
 けれど・・・

 「ズドーン!」
 
 至近距離からの散弾ではひとたまりもありません。ご主人は即死だったそうです。
 さらに、父親が撃たれ、驚いて逃げる弟を追いかけて、背後から発砲したそうです。
 玉は腰から肢へ当たりました。幸い一命は取り留めたそうですが、下半身不髄になってしまったと聞きました。
 兄はそのまま軽トラックで逃走、結局、数時間後、隣町の警察に自首してきたそうです。

 信じられない話でした。
 くりまんじゅうの父親などは「子犬どころの話じゃないな」と頭を抱えていました。

 その事件の3日後だったと思います。なんと、その家の奥さんから電話があったのです。
 「もうご存知かもしれませんが・・・」
 そう切り出した奥さんは、主人と息子もいなくなってしまって、犬の面倒もみられないので・・・子犬をなるべく早く引き取りに来て欲しいという旨を告げてきたのです。

 けれど、困ったのは父親です。
 犯人は実の息子。そして、被害者は自分の夫とやはり自分の息子なのです。そんな相手に、いったいどんな顔で会い、なんて言ったらいいのか・・・かなり考えていたようでした。
 考え抜いた挙句、結局、父親の取った作戦は「子供同行作戦」でした。子供の無邪気で明るい勢いを借りたわけです。
 偶然、来ていたくりまんじゅうの従兄弟の子供と以前うちにパートに来ていた知り合いの子供二人を連れて、翌日、浅科村へ行ってきました。
 二人とも今では高校生。けれど、当時は3,44歳だったかと思います。

 連れてきた子犬は2匹でした。
 6匹とも全部、連れて行って欲しいとも言われたそうですが、それはさすがに無理なので、当初は1匹だった予定を2匹にしたそうです。
 そのうちの1匹は、猟仲間のところへ行き、そして、そのうち誰かにあげようと残ったもう一匹の犬が『シロ』なのです。

 いわくつきのイングリッシュセッター「シロ」の悲しいお話です。
 本当はブリジストンの創業者石橋会長の愛犬の血筋を引く、立派な血統なのですが、残念ながら、それを証明する血統書はありません。(^^;

 もう13年程前の話です。佐久に行くと思い出します。

1 件のコメント:

  1. くりまんじゅうさんは、いろんな事件に関係してしまうことが多かったのですね・・・

    まずは、やきまんじゅうもふたりの子供をもつ母親ですので、その酒屋さんの奥様の事を思うと、胸が痛みます。兄弟が仲良く助け合って生きてほしいのは、親の願いです。
    また結婚して幸せな家庭を作りたい・・・
    と誰もが思って、結婚し家庭をつくるのですから、こんなことになるなんて奥様も想像も出来なかったことです。
    奥様の現在もとても心配されます。
    お元気でお過ごしでしょうか・・・
    そして、障がいを負ってしまった息子さんにも強く生きてほしいと、願います。

    そして、シロチャンはもしかしてその事件の
    目撃者かもしれないですね。

    シロチャンにも、辛い出来事だったかもしれません。でも今は、愛情たっぷりのくりまんじゅう家の一員になれて、本当に良かったですね! 
    シロチャン長生きしてね!!! 

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