「この間、NHKで見た『すぎもとまさと』っていう人の『ワレモコウ』という曲をレンタルショップに借りに行ったんだけど置いてなかった。いい歌なんだ。インターネットとかなら、手に入るかな?」
『すぎもとまさと…?』
『ワレモコウ…?』
知らない歌手の知らない歌でした。
調べてみました。
ワレモコウは「吾亦紅」。日本の山野に普通に見られる多年草で、夏の終わりに細い茎が枝分かれして伸びた先に小指の先ほどの可憐な花穂をつけて、秋の深まりと共に紅を濃くしていく植物です。
名前は知りませんでしたが、この植物なら、山で見たことがありました。
そして、『杉本真人』氏の歌う『吾亦紅』は今、団塊の世代を中心に人気急上昇中らしいです。
聞いてみたらいい歌でした。メロディーもいいですが、歌詞が特にいいです。都会に出てからは仕事を言い訳に、故郷の母親を訪ねる事のなかった男が、来月離婚をするので、母の墓前に一人立ちの報告をするという歌です。秋の山里、その墓石の前に一人佇む中年男の心情が、日本的情緒を纏いながら心に染み入ります。
『吾亦紅』 作詞:ちあき哲也、作曲:杉本真人
マッチを擦れば おろしが吹いて
線香がやけに つき難(にく)い
さらさら揺れる 吾亦紅
ふとあなたの吐息のようで. . .
盆の休みに帰れなかった
俺の杜撰(ずさん)さ嘆いているか
あなたに あなたに 謝りたくて
仕事に名を借りた ご無沙汰
あなたに あなたに 謝りたくて
山裾の秋 ひとり逢いに来た
ただ あなたに謝りたくて
小さな町に嫁いで生きて
ここしか知らない人だった. . .
それでも母を生き切った
俺、あなたが羨ましいよ. . .
今はいとこが 住んでる家に
昔みたいに 灯りがともる
あなたはあなたは家族も遠く
気強く寂しさを堪えた
あなたのあなたの見せない疵(きず)が
身に沁みて行くやっと手が届く
ばか野郎となじってくれよ
親のことなど 気遣う暇に
後で恥じない 自分を生きろ
あなたのあなたの 形見の言葉
守れた試しさえ ないけど
あなたにあなたに 戚張ってみたい
来月で俺 離婚するんだよ
そう、はじめて自分を生きる
あなたにあなたに見ていて欲しい
髪に白髪が混じり始めても
俺、死ぬまで あなたの子供. .
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読売新聞編集手帳(2007年10月18日)にもこんな素敵な文章がありました。
◆すぎもとまさとさんの歌う「吾亦紅」(ちあき哲也作詞、杉本真人作曲)は、中年の男が墓参りをして亡き母をしのび、もうじき離婚することになった身の上を墓前に告げる歌である。酒場で聴いた有線放送に教えられ、CDを買った。
◆墓碑の傍らで山から吹き下ろす風に揺れている吾亦紅の花に、〈小さな町に 嫁いで生きて ここしか知らない 人だった〉母の、ひそやかに咲いた人生をかさねている。
◆つまずいたり、ころんだり、浮世の酸味を知る年ごろになって、家族から離れて故郷にひとり暮らして逝った母の、語りはしなかった悲しみがようやく分かった。〈ばか野郎と なじってくれよ〉と歌う。
◆親が子を思う情はいつの世にも、「永遠の片思い」であるという。片思いに応えられる年齢になったとき、親はいない。墓前にたたずめば人は誰もが、「ばか野郎」となじってもらいたい親不孝な息子であり、娘であろう。この秋、墓参りはしましたか?
◆ 〈髪に白髪(しらが)が混じり始めても 俺(おれ)死ぬまであなたの子供…〉。すぎもとさんの歌はそう結ばれている。
ちなみに映像は(これ)です。
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