2007-10-09

最果ての日本人

もう、二十五年近く前になるかと思いますが、久米宏のTVスクランブルという番組がくりまんじゅうは好きでした。特にその番組の中にあった「最果ての日本人」というコーナーは今でも記憶に強く残っています。

それは、北の果て、南の果て、東の果て、西の果て、世界各地のたった一人しか日本人のいない場所へ番組スタッフが出向き、そこで暮らす日本人の生き方や考え方、そして日々の仕事や生活を取材して、番組で紹介するというものでした。

「日本という小さな国を離れ、今の生活はすごく充実して楽しい」
「日本と違い、ここには本物の自由がある…」
「日本を離れて、一つの悔いも後悔もない。今の自分に満足している」

毎週、番組で紹介される最果てで暮らしている日本人たちは、みな、明るく、ポジティブで前向です。日本を離れてみたからこそ分かる世界の広さ、そして可能性というような話を自信に満ちて語ってくれました。

番組は2、30分のコーナーだったような気がします。
そして、最後に、「これは取材のお礼です」そういって、日本から持参した材料で作った料理を差し出します。最高の材料を最高の腕でということで、番組スタッフには本物の板前さんも同行していました。

「なんですか?」

そういって目の前に置かれた料理に、最果ての日本人は一瞬、息を飲みます。

それは一杯の「お茶漬け」でした。

「お茶漬けですか…」
少しはにかむような笑顔で呟いて、
「へぇ、懐かしいな…これ頂いていいんですか?」
と、箸を取って米を口に入れます。

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食べ始めると、一様に、みな、無言になりました。
米ではない、別の何かを噛み締めるように、口だけが小さく動きます。

日本に何一つ未練はないといっていたある人は「まいったな。反則だよ」そう言ったきり、あとは言葉になりませんでした。そして、その頬に伝わる大粒の涙を隠そうともせずにただお茶漬けをかきこんでいました。
また、もう10年以上日本に帰っていないという女性は二口、三口食べるなり、「帰りたくなっちゃった」と言って、そのまま震えるように嗚咽していました。
「美味しいですか?」というスタッフの問い掛けにも、ただ下を向き、無言で首を縦に振るだけの男性もいました。聞いてるスタッフも泣いてました。

モニターでそれを見ながら、スタジオの観客や久米宏の隣に座る横山やすしも涙を流していました。もちろん、くりまんじゅうもテレビの前で泣いてしまいました。

その味に、最果ての日本人が何を感じ、何を思ったのか。味の記憶は強烈です。きっと、たった一杯のお茶漬けの味が、ストレートに、心の奥へ響いたのだと思います。たとえ、どんなに長くどんなに遠く離れていても、やはり自分の原点が「日本人」であることを感じたのかもしれません。そして、世界の最果てで、たった一人で頑張ってきたからこその、その溢れる涙に、見ているものも感動したのだと思います。

海外で試合をして、表彰式で日の丸を見ると、ただそれだけで泣けてくる。あるオリンピック選手がそう言っていましたが、それも分かるような気がします。

でも、今になって思うと、日本の味として、「お茶漬け」っていうのは、凄くいい選択だと思います。故郷の味となると味噌汁などがすぐに思いつきますが、その味は育ったその土地で皆違うでしょうし、母親の味である家庭料理も人それぞれになってしまうからです。その点、お茶漬けは、純粋に日本の米を日本茶で味わう、まさに日本人すべてに共通した「日本の料理」です。

故郷を大切にしたいですね。あらためてそう思います。

3 件のコメント:

  1. 『お茶漬け』
    なるほど日本全国共通の味ですね。
    食べたくなりました。

    『故郷』の思い出は意外に『味覚』の記憶も
    大きいとやきまんじゅうは感じています。

    こうやって前の日記にも投稿しちゃっても良いのかしら???ごめんなさい。

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  2. ぜんぜん、OKです。

    コメントが書き込まれると、自動的にくりまんじゅうには「どこの記事に誰がどんなコメントを書いてくれたのか」通知されます。

    これからもよろしくです。

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  3. ご回答ありがとうございました!

    こちらこそ宜しく!です!

    返信削除

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